帰りたい男
18時30分。世田谷区内のあるドトールにいました。カウンターのガラスごしに駅前の風景が見えます。
30歳前後の女性がカウンターにすわって、視線を泳がせています。しばらすると、20代半ばの青年が現れました。スーツ姿、刈り込んだ短い髪。爽やかな表情です。
「あ~すいません! あ、A子さん!」
「フフフ、だれが待ってるって言われたの?」
「いや、先輩で話したい人がいるって……」
「フフフ、私じゃないと思ったぁ? Bくんもなにか飲めばいいじゃん~」
「いや、いいです。今日は早く帰らなきゃならないんスよ」
「なあに?」
一瞬、恐ろしい表情を見せる女性。
「彼女?」
「いや、あの、今日は車で来てるんで、運転して帰らなくちゃいけないんすよ」
女性は動揺を隠しながら笑顔をつくります。
「なあに~最後だから、彼女を乗せてドライブでもするのぉ?やけになって、とばしちゃったりするのぉ~?」
「しませんよ、こんな時間から」
「……ねえ、なんでやめちゃうのよぉ?」
「はは、まあいいじゃないすか」
「なんでなのよぉ~」
「はは」
「今日、専務と話したでしょ?」
「はい、初めて話しましたよ。今までなに考えてんだか、まったくわかりませんでしたからね。最後になって初めてです」
「なんでやめちゃうのよぉ~?」
女性、食い下がっています。さらに次回……。