帰らせたくない女
前回の続きです。A子、食い下がって聞きます。
「なんでやめちゃうのよぉ~?」
「いや、そろそろかなと思って。給料も安いし」
20代半ばのBくん、あくまも冷静に答えます。
「それにしても突然じゃん? 今日じゃなくても」
「そういうわけでもないですよ。今日で定期が切れちゃうし」
「そういう問題じゃないでしょう」
「いや、大きいでしょ。定期が切れてまで、来たくないし」
「そんな小さなことなの?」
「だって、もったいないじゃないすか」
絶句するA子。意外に小さい男だと思ったのでしょうか。でも、こんなことありがち。Bくんはすでにふっ切れた表情で、スカーッと抜けた顔をしています。
なんとかここで自分のほうへ興味をひきたい。もっといっしょにいたい。話題を変えたら、どうにかなるかも……。そんな気持ちなのでしょうか。
それとも、あまりに面食らってしまって、いっぺんに気持ちが白けてしまったのでしょうか。
なんとも複雑な表情をしているA子。話のきっかけをさがそうとしはじめたものの、出てこない……。
すると、Bくんはしらけた空気に気づいて、話題を変えました。
「A子さん、いつも何時に起きてるんですか?」
「私? 8時くらいかな」
「結婚してる人って、もっと早いんじゃないすか?」
A子が既婚者だったとは……。